大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和61年(わ)936号〔2〕 判決

本籍

大阪府高石市加茂二丁目九七番地の二

住居

同市西取石一丁目七番三六コーポローリエ一〇三号

会社役員

環秀雄

昭和一九年二月七日生

本籍

大阪府泉大津市旭町二三三番地

住居

同市旭町一番四号

会社役員

内田

昭和一六年三月五日生

右両名に対する各相続税法違反、所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官重富保男出席のうえ、審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人環秀雄を懲役二年四月及び罰金三〇〇〇万円に、被告人内田を懲役一年六月及び罰金一八〇〇万円に処する。

被告人らがその罰金を完納することのできないときは、金一〇〇〇〇〇円をそれぞれ一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

本裁判確定の日から被告人環秀雄に対し五年間、被告人内田に対し三年間それぞれその懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人内田の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人環秀雄は、昭和五三年ころから同五七年一一月ころまで全日本同和会和歌山県連合会和歌山市支部の役員を、同五八年二月ころからは部落解放同志会大阪府連合会本部理事長をしていたもの、被告人内田は同五六年ころから右全日本同和会和歌山県連合会和歌山市支部の役員を、同五八年三月ころからは右支部支部長をしていたものであるが、

第一  被告人両名は、上野政一が昭和五七年三月三一日に死亡したことによる相続税に関し、同人の長男で上野政一の財産を共同相続した分離公判前の相被告人上野勉、同人の知人で不動産売買業の友信興業株式会社の代表取締役をしていた分離公判前の相被告人坂元良次、飲食店を経営していた分離公判前の相被告人北口洋人及び右全日本同和会和歌山県連合会和歌山市支部支部長をしていた分離公判前の相被告人石田吉信ら四名と共謀の上、上野勉の相続税を免れようと企て、同年九月三〇日、神戸市兵庫区水木通二丁目一番四号所在の兵庫税務署において、同税務署長に対し、上野勉の法定相続分に基づく相続税の申告をするに際し、同人の相続財産にかかる課税価格は六七二八万五五七七円でこれに対する相続税額は二九三九万一五〇〇円であるにもかかわらず、上野政一には右全日本同和会和歌山県連合会に五億六五八三万三三三三円の債務があり、上野勉はこの内四七一五万二七七七円の債務を負担すべきこととなったかのごとく仮装しその相続財産の課税価格は二〇一三万二七九八円でその相続税額は四八二万七五〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出した上、同五八年四月一五日、右税務署において、右税務署長に対し、上野勉が共同相続人との遺産分割の協議によりその相続財産の大部分を相続したとして修正申告するに際し、上野勉の相続財産にかかる課税価格は八億一九〇二万三六五八円で、これに対する相続税額は三億九九八五万五三〇〇円であるにもかかわらず、同人が上野政一の債務をすべて負担すべきこととなったかのごとく仮装し、その相続財産の課税価格は二億一九七四万五二三〇円でその相続税額は五二六七万五八〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の修正申告書を提出し、もって、不正の行為により上野勉の相続税三億四七一七万九五〇〇円を免れた、

第二被告人環秀雄は、

一  村上勇が同五八年七月二八日に死亡したことによる相続税に関し、同人の長男で村上勇の財産を共同相続した分離公判前の相被告人村上淳、同人妻の妹婿である分離公判前の相被告人平山成信、前記部落解放同志会大阪府連合会本部会計責任者をしていた分離公判前の相被告人西田明敏及び被告人環の知人である分離公判前の相被告人秦勝義ら四名と共謀の上、村上淳の相続財産にかかる相続税については納税義務者として、また、同人の実姉森下房江、実妹小牧和江、同西昌江及び村上淳の長男で村上勇と養子縁組をした村上茂の各相続財産にかかる相続税については村上淳が各納税義務者の代理人として相続税の申告をするに当たり、相続税を免れもしくは免れさせようと企て、村上淳の実際の相続財産の課税価格が三億三六四七万二九八四円でこれに対する相続税額は一億二七四二万一三〇〇円であり、森下房江の実際の相続財産の課税価格が七一七一万二六六〇円で、これに対する相続税額は二六九九万九三〇〇円であり、小牧和江の実際の相続財産の課税価格が六八九五万二六六〇円で、これに対する相続税額は二五九一万二〇〇円であり、西昌江の実際の相続財産の課税価格が六九〇六万九六五五円であり、これに対する相続税額が二五九一万二〇〇円であり、村上茂の実際の相続財産の課税価格が二八四九万六三六九円で、これに対する相続税額が一〇三二万三九〇〇円であるにもかかわらず、村上勇が右部落解放同志会大阪府連合会本部理事長の被告人環秀雄から三億五〇〇〇万円の債務を負担しており、そのうち、村上淳において一億七四三〇万円を、森下房江において五二八五万円を、小牧和江において五〇七五万円を、西昌江において五一一〇万円を、村上茂において二一〇〇万円をそれぞれ承継したと仮装するなどした上、同年九月二六日、大阪府堺市南瓦町二番二〇号所在の堺税務署において、同税務署長に対し、村上淳の相続財産の課税価格が六二〇七万九七七〇円で、これに対する相続税額は八七九万八一〇〇円であり、森下房江の相続財産の課税価格が一八八六万二六六〇円で、これに対する相続税額は二六六万二三〇〇円であり、小牧和江の相続財産の課税価格が一八二〇万二六六〇円で、これに対する相続税額は二五七万四一〇〇円であり、西昌江の相続財産の課税価格が一七九六万九六五五円で、これに対する相続税額は二五三万八九〇〇円であり、村上茂の相続財産の課税価格が七四九万六三六九円で、これに対する相続税額は一〇五万七八〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、もって、不正の行為により村上淳の右相続にかかる正規の相続税額一億二七四二万一三〇〇円との差額一億一八六二万三二〇〇円を免れ、かつ森下房江をして右相続にかかる正規の相続税額二六九九万九三〇〇円との差額二四三三万七〇〇〇円を、小牧和江をして右相続にかかる正規の相続税額二五九一万二〇〇円との差額二三三三万六一〇〇円を、西昌江をして右相続にかかる正規の相続税額二五九一万二〇〇円との差額二三三七万一三〇〇円を、村上茂をして右相続にかかる正規の相続税額一〇三二万三九〇〇円との差額九二六万六一〇〇円をそれぞれ免れさせた、

二  分離公判前の相被告人藤原初男が同五八年三月一四日に大阪府堺市深阪一〇三五番二ほか二筆の土地(田)合計一四二九平方メートルを一億三一〇四万円で売却譲渡したことによる所得税に関し、同人及び被告人環の知人で不動産売買仲介業をしていた分離公判前の相被告人谷口渉の二名と共謀の上、右売却譲渡にかかる所得税を免れようと企て、藤原初男の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一億一八八四万八一三〇円でこれに対する所得税額は三〇三二万一八〇〇円であるにもかかわらず、被告人環の知人である泉谷繁蔵が伍用清から八〇〇〇万円を借入れ、その債務について、藤原が連帯保証人となり、その連帯保証債務を履行するために右土地を譲渡し、その譲渡収入で同月三〇日に元利合計九五〇〇万円を支払ったが、泉谷に対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどし、同五九年二月二五日、前記堺税務署において、同税務署長に対し、藤原の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一四三一万一三〇円で、これに対する所得税額は二六七万三二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により右の正規の所得税額三〇三二万一八〇〇円との差額二七六四万八六〇〇円を免れた、

第三  被告人内田は、西垣外秀雄が同五八年九月一六日に大阪府堺市丈六六一九〇番地一所在の土地(宅地)約一一八九平方メートルを三億五〇〇〇万円で売却譲渡したことによる所得税に関し、同人の妻である分離公判前の相被告人西垣外淑子、右売買を仲介した不動産売買仲介業を目的とする三景実業株式会社代表取締役の分離公判前の相被告人三木興一、全國同友会大阪本部事務局長であった分離公判前の相被告人石橋正昭並びに前記全日本同和会和歌山県連合会副会長をしていた分離公判前の相被告人石田吉信及び西垣外秀雄ら五名と共謀の上、右売却譲渡にかかる所得税を免れようと企て、同人の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は二億六四五〇万九七三二円、総合課税の不動産所得金額は二六二万五五一九円で、これに対する所得税額は八五四〇万一〇〇〇円であるにもかかわらず、石田が代表取締役をしている株式会社マウント開発が右全日本同和会和歌山県連合会から二億二〇〇〇万円の借入れをし、その債務について、西垣外秀雄が連帯保証人となり、右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で右全日本同和会和歌山県連合会に対し、同年一二月二五日に二億二〇〇〇万円を支払ったが、右マウント開発に対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどし、同五九年三月一四日、前記堺税務署において、同税務署長を介して、所轄富田林税務署長に対し、西垣外秀雄の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は五九五〇万一五一二円、総合課税の不動産所得金額は二六二万五五一九円で、これに対する所得税額は一三一四万九九〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により右の正規の所得税額八五四〇万一〇〇〇円との差額七二二五万一一〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示冒頭及び第一の事実につき

一  被告人環秀雄の検察官に対する供述調書(検甲47号1被告人環の関係でのみ)

一  被告人内田の検察官に対する供述調書(検甲57号)

判示第一ないし第二の二の事実につき

一  第一回公判調書中の被告人環の供述部分

判示第一及び第三の事実につき

一  第一回公判調書中の被告人内田の供述部分

判示第一の事実につき

一  被告人環の当公判廷における供述(第二一回、第二六回、第四五回各公判期日におけるもの)

一  被告人環の検察官に対する各供述調書(検甲49号ないし52号、54号、55号)

一  被告人内田の当公判廷における供述(第二〇回公判期日におけるもの)

一  被告人内田の検察官に対する各供述調書(検甲58号ないし60号、63号〔但し、被告人内田の関係でのみ〕、65号)

一  分離公判前の相被告人上野勉の検察官に対する各供述調書(検甲19号ないし22号)

一  分離公判前の相被告人坂元良次の当公判廷における供述(第二八回、第三一回、第三二回、第三四回、第三七回、第三八回、各公判期日におけるもの)

一  坂元良次の検察官に対する各供述調書(被告人環の関係では検甲24号ないし28号、被告人内田の関係では同255号ないし259号)

一  第一回公判調書中の分離公判前の相被告人北口洋人の供述部分

一  北口洋人の当公判廷における供述(第一二回〔但し、被告人環の関係でのみ〕、第一四回各公判期日におけるもの)

一  第一二回公判調書中の北口洋人の供述部分(被告人内田の関係でのみ)

一  北口洋人の検察官に対する各供述調書(被告人環の関係では検甲30号、32号、33号〔但し、第七項を除く〕、34号、被告人内田の関係では同247号ないし249号)

一  第一回公判調書中の分離公判前の相被告人石田吉信の供述部分

一  石田吉信の当公判廷における供述(第一六回、第二〇回各公判期日におけるもの)

一  石田吉信の検察官に対する各供述調書(被告人環の関係では検甲35号、37号ないし42号、43号〔但し、第一三項、一四項を除く〕、44号、被告人内田の関係では同35号、37号ないし45号)

一  証人三谷正の当公判廷における供述(被告人内田の関係では第二回、第四回各公判期日におけるもの)

一  第八回公判調書中の証人三谷正の供述部分(被告人内田の関係でのみ)

一  三谷正(二通)、上野正俊の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲1号)

一  大蔵事務官作成の各証明書(検甲2号ないし5号)

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(被告人両名の関係で検甲6号ないし12号、被告人環の関係では同233号ないし235号、被告人内田の関係では同236号ないし238号)

判示第二の一の事実につき

一  被告人環の検察官に対する各供述調書(検甲134号ないし140号、142号)

一  分離公判前の相被告人村上淳(八通)、同平山成信(検甲110号ないし113号)、同西田明敏(同117号ないし120号)、同秦勝義(同123号ないし131号)の検察官に対する各供述調書謄本

一  久次米昭の検察官に対する供述調書謄本(検甲101号)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(検甲87号)

一  大蔵事務官作成の証明書謄本(検甲85号)

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書謄本(検甲88号ないし97号)

判示第二の二の事実につき

一  被告人環の検察官に対する各供述調書(検甲217号ないし223号)

一  第一回公判調書中の分離公判前の相被告人藤原初男及び同谷口渉の各供述部分

一  藤原初男の検察官に対する各供述調書(六通)

一  谷口渉の検察官に対する各供述調書(検甲212号ないし214号)

一  植野和子、清水照一、藤原武平、伍用清一、浜田百々代、奥平康子、久次米昭(検甲204号)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲191号)

一  大蔵事務官作成の証明書(検甲192号)

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲193号ないし197号)

判示第三の事実につき

一  分離公判前の相被告人三木興一及び同石橋正昭の当公判廷における各供述

一  第一回及び第一〇回公判調書中の分離公判前の相被告人西垣外淑子の各供述部分

一  第一回公判調書中の三木興一及び石橋正昭の各供述部分

一  被告人内田の検察官に対する供述調書(検甲184号)

一  西垣外淑子(検甲163号ないし166号、168号)、三木興一(五通)、石橋正昭(三通)、石田吉信(同177号ないし182号)の検察官に対する各供述調書)

一  証人西垣外秀雄の当公判廷における供述

一  西垣外秀雄の検察官に対する各供述調書

一  第九回公判調書中の証人西野明子の供述部分

一  松木敏雄(検甲155号ないし157号)、片山改作、久次米昭(同162号)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲144号)

一  大蔵事務官作成の証明書(検甲145号)

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲146号ないし153号)

(補足説明)

被告人環の弁護人は、判示第一の事実に関し、被告人環は昭和五七年九月三〇日の申告については被告人内田ら共犯者と共謀しているが、同年一一月全日本同和会和歌山県連合会を退会したため翌年四月一五日の修正申告には関与していない旨主張し、被告人環も公判廷において右と同旨の供述をしているところ、関係証拠によると、被告人環は同五七年一一月ころ全日本同和会和歌山県連合会を除名となり、それ以来同連合会の事務所に出入りしておらず、修正申告書の提出された同五八年四月一五日には兵庫税務署に行っていないことが認められるものの、被告人環は、公判廷において、修正申告がなされることは右申告の前から知っていたこと、除名となってからも被告人内田の家を度々訪れるなど同人とは親しく交際していたこと並びに修正申告書を作成した税理士に対し支払われた謝礼金のうち一部を被告人環も負担していることは自認している上、被告人内田は、公判廷において、被告人環から修正申告することを聞いたこと、右税理士のもとに被告人環が修正申告書を取りに行ったことを明言しており、右供述の信用性に疑いを入れる余地がないことのほか被告人内田の検察官に対する供述調書その他の関係証拠を合わせ考慮すると、被告人環について、右修正申告に関しても共同正犯の責任は免がれないというべきである。

(法令の適用)

一  判示所為

第一につき、刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条第二の一のうち、村上淳を納税義務者とする相続税の脱税の点は刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条、村上淳を納税義務者の代理人とする各相続税の脱税の点はいずれも刑法六五条一項、六〇条、相続税法七一条一項、六八条

第二の二及び第三につき、いずれも刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条

一  観念的競合(第二の一の罪につき)

刑法五四条一項前段、一〇条(犯情の最も重い村上淳を納税義務者とする相続税の脱税の罪の刑で処断)

一  刑の選択(判示の罪全部につき)

いずれも懲役刑と罰金刑を併科

一  併合罪

刑法四五条前段(被告人環の関係では、判示第一ないし第二の二の各罪の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一ないし第二の二の各罪所定の罰金額を合算し、被告人内田の関係では、判示第一及び第三の各罪が併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一及び第三の各罪所定の罰金額を合算する。)

一  執行猶予(被告人両名に対し、その懲役刑につき)

刑法二五条一項

一  労役場留置(被告人両名に関し)

刑法一八条

一  訴訟費用

被告人環につき、刑事訴訟法一八一条一項但書、被告人内田につき、同法一八一条一項本文

(量刑の理由)

本件は、職業的脱税請負人であった被告人環において、脱税を請負うことによって不正の報酬を得ることを企て、相続税及び所得税合計五億七三七六万円余を脱税したという相続税法違反二件及び所得税法違反一件並びに同じく職業的脱税請負人であった被告人内田において、右と同様の目的で、相続税及び所得税合計四億一九四三万円余を脱税したという相続税法違反及び所得税法違反及び所得税法違反各一件という事案であるが、各犯行は私利私欲にかられたもので動機において同情の余地がなく、その犯行態様も、いずれも架空の債務を作出して金銭借用証書や連帯借用証書、債権債務確認書、領収書等を偽造するなど、用意周到で計画的なものがあり、いずれもほ脱額は高額で、ほ脱率も高率であり、右各犯行により、被告人環は約五三〇〇万円余の、被告人内田は約三〇〇〇万円の報酬を得ているなど、被告人両名の犯情は悪質で、各刑責は軽視し難いものがある。殊に、被告人環は、昭和五七年ころから脱税の請負を始め同五八年二月ころからは自ら部落解放同志会を設立して同和団体の威勢を背景に多数の脱税を請負い、多額の報酬を得ていたもので、遵法精神の欠如は著しく、したがって、被告人環の刑責は重く実刑判決に処することも十分考えられるところである。しかしながら、本件においては、これまで同和諸団体の関与するこの種脱税を安易に容認して放置してきた税務当局の側にも一端の責任があること、被告人環において、判示第一について税金の支払や利得金の返済で既に脱税によって利得した一五〇〇万円以上の金員を支出し、判示第二の一について依頼者との間で利得金三〇〇〇万円を三年間で分割して支払う示談を成立させ、その履行を確保するため物的担保を差し入れるとともに、既に一〇〇〇万円支払い、判示第二の二についても依頼者との間で三〇〇万円支払う示談を成立させ右金員を支払っていること、被告人内田は、判示第一について脱税によって利得した一五〇〇万円以上の金員を支払い済みで、判示第三についても分離公判前の相被告人石田に被告人内田の利得分一五〇〇万円を含めて本税及び延滞税として合計九〇九七万円余を支払ってもらっているなど、被告人両名が深く反省していること、被告人両名にはいずれも罰金刑一回しか前科がないことや各家庭の事情など被告人それぞれの有利な事情のほか、被告人環が余罪の関係でも多数の依頼者と示談をし合計四四〇〇万円を返還していること並びにこれまで社会福祉に貢献していることなどを斟酌すると、被告人内田に対しては勿論のこと、被告人環に対しても、今回に限り、刑の執行を猶予するのが相当と思料し、被告人両名に対し主文の量刑をした次第である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 東尾龍一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例